脳卒中の再発率
脳卒中の再発率をご存じですか?
病院に勤めていると、再入院して来られる方が少なくありません。
最小の発症は大きな影響がなくても、2回目になると出血や梗塞の範囲が広く、日常生活を送ることが自力では困難な方もいます。
脳卒中は再発しやすい病気であり、福岡県久山町での研究によると、年間の再発率は約5%と言われています。
これは20人に1人が1年以内に脳卒中は再発するということになります。
また10年間では約半数の方が再発するとのデータもあり、脳卒中の再発予防は重要となります。
(HATA, J.et al : Ten year recurrence after first ever stroke in a Japanese community: the Hisayama study.J. Neurol.Neurosurg.Psychiat,. 76. 368-372, 2005)
そもそも脳卒中を発症するということは、生活習慣の問題や、高血圧や糖尿病など基礎的な疾患を有していることが多く、再発しやすい傾向にあります。
再発予防のために
脳卒中の再発予防では、3つのポイントがあります。
これら3つについて、これら見ていきましょう。
①基礎疾患の治療・管理
脳梗塞や脳出血などの脳卒中を発症された方は、原因となった病気があります。
例えば、高血圧や糖尿病、脂質異常症といった脳卒中の危険因子が基礎になって発症します。
(高血圧)
高血圧の診断基準は140/90mmHg以上とされています。
そのため最近では、脳心血管疾患の発症を抑制するため、130/80mmHg未満を推奨する傾向にあります。
理想は120/80mmHg以下であれば、心血管疾患の発症や死亡リスクは低下します。
(Fujiyoshi A, et al : Observational Cohorts in Japan(EPOCHJAPAN)Research Group. Blood pressure categories and long-term risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women. Hypertens Res 35 : 947―953, 2012.)
血圧を下げる降圧剤を医療機関で処方されますが、この薬は基本的に飲み続けることが前提となっています。
降圧治療をすると脳卒中の再発率を約3割ほど減らせるため、継続的に飲み続けなければなりません。
薬の服用を途中で辞めて再発している方が多いので、血圧管理のためにも途中で辞めないように注意してください。
(糖尿病)
糖尿病は動脈硬化を発生・進行させるので、食事や運動によって血糖値をコントロールします。
最近は血糖値の急上昇が問題視されており、食後に血糖値が急上昇することを「血糖値スパイク」と呼びます。
食後に血糖値が急激に上昇する状態が繰り返されると、血管の内側が傷みます。
通常は血糖値を下げるインスリンが働き、血糖値が上がらないように作用してくれますが、日本人はインスリンが出にくい人種と言われています。
また年齢とともにインスリンが分泌される能力は低下するため、食事には十分注意する必要があります。
血糖値の上昇を緩やかにするために、炭水化物の過剰摂取を抑えるなどの改善も最近はよく耳にします。
とくにGI(グリセミック・インデックス)の低い食品を選ぶことも勧められています。
GIとは食品ごとの血糖値の上げやすさを数値で表したもの
炭水化物において、茶色の炭水化物の方が低GIとされており、お米は白米ではなく玄米などを食べることが勧められています。
(低GIな炭水化物の一例)
- 春雨
- 全粒粉パン
- オートミール
- 玄米
- ライ麦パン
- そば(生)
(脂質異常症)
脂質異常症はLDLコレステロール(いわゆる悪玉コレステロール)、HDLコレステロール(いわゆる善玉コレステロール)、トリグリセライド(中性脂肪)の血中濃度の異常があると言われています。
(出所)厚生労働省 生活習慣病予防のための健康情報サイト e-ヘルスネット
LDLコレステロールは動脈硬化を進行させる力が強いため、特に注意とされています。
LDLコレステロールの上昇は、肉の脂身やバター、生クリームに多く含まれる飽和脂肪酸の取りすぎが挙げられます。
HDLコレステロールが低下は、中性脂肪が高値となることと連動しやすいとされ、運動不足や肥満、喫煙、飲酒との関連もあります。
HDLコレステロールを上げるためには、適度な運動や禁煙・飲酒を控えるといったことが大切になります。
中性脂肪の上昇は、糖質やお酒・油モノの取りすぎが挙げられています。
数値を下げるには、エネルギーの取りすぎが原因のため運動や減量が効果的です。
また青魚に多く含まれるオメガ3脂肪酸(多価不飽和脂肪酸)を摂取することが、中性脂肪を下げるには良いとされています。
②生活習慣
脳卒中の再発を予防するには生活習慣の見直しは必至です。
禁煙や禁酒、定期的な運動で、再発を予防することは可能です。
飲酒や喫煙は動脈硬化のリスクを高めるため、一度発症した方は特に注意して欲しい点になります。
飲酒ではなく、水分と食事をしっかり摂取することが大切です。
食欲がないため、食事を摂取されない方もいますが、食べものには水分がしっかり含まれています。
高齢者の場合は、食事からとる水分の比重が大きいとされているので、食事はしっかりと摂取しましょう。
また規則正しい生活をし、ストレスをためないことも大切です。
ストレス社会と言われる現在ですので、ストレスと上手に付き合うことも大切です。
睡眠時間をしっかり確保したり、ストレスを発散する方法を持つことも重要となります。
③手術
動脈硬化により血管内にコレステロールや脂肪、血栓が溜まることで、血管が細くなる狭窄(きょうさく)が起こります。
この状態は脳梗塞が発症しやすい状態のため、抗血栓療法や危険因子の管理と並行して手術をする場合があります。
狭窄している部分にステントと呼ばれる金属の筒を留置して血管内を広げるステント留置術が侵襲が少なく多い傾向にあります。
すでに狭窄している血管であれば、定期的に検査しておく必要があるため、MRIやエコー検査は必ず行うようにしましょう。
おわりに
どんなにリハビリを頑張って改善しても、脳卒中を再発してはその期間が頑張りが無駄になる可能性があります。
リハビリを継続して後遺症と向き合いながら、再発予防に取り組むようにしましょう。
(参考文献)
1) Ikeda N, et al : Adult mortality attributable to preventable risk factors for non-communicable diseases and inju–ries in Japan : a comparative risk assessment. PLoS Med 9 : e1001160, 2012.
2) 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編:高血圧治療ガイドライン2019.ライフサイエンス出版,2019.
3) Fujiyoshi A, et al : Observational Cohorts in Japan(EPOCHJAPAN)Research Group. Blood pressure categories and long-term risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women. Hypertens Res 35 : 947―953, 2012.
4) Kinoshita M, et al : Japan Atherosclerosis Society(JAS)Guidelines for Prevention of Atherosclerotic Cardiovas–cular Diseases 2017. J Atheroscler Thromb 25 : 846―984, 2018.
5) Arima H, et al : Development and validation of a cardiovascular risk prediction model for Japanese : the Hisayama study. Hypertens Res 32 : 1119―1122, 2009.
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7) NIPPON DATA80 Research Group : High blood pressure in middle age is associated with a future decline in activities of daily living. NIPPON DATA80. J Hum Hypertens 23 : 546―552, 2009.
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9)宮本恵宏.特定保健指導の対象とならない非肥満の心血管疾患危険因子保有者に対する生活習慣改善指導ガイドライン.厚生労働科学研究費補助金疾病・障害対策研究分野循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究「非肥満者に対する保健指導方法の開発に関する研究」平成27~29年度総合研究報告書, 2018.